Life in the Mountain
INTERVIEW with
SETSUMASA KOBAYASHI
.......RESEARCH
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Life in the Mountain
INTERVIEW with
SETSUMASA KOBAYASHI
.......RESEARCH
独自のスタイルを確立したキャンパーたちの
フィロソフィーに触れるインタビュー。
第1回目のゲストは〈. . . . .RESEARCH〉の小林節正さん。
長野県の金峰山北麓に構えた美しきキャンプサイトを訪ねた。
Photo : GO TANABE
Text&Edit : HIDEKI GOYA(Interview)
風に揺れる木々のささめき、遠くから聞こえる小鳥のさえずり。心地よいサラウンドに包まれるこの場所は、小林節正さんが自らの手で開拓した、自らのためのキャンピングスペース。この地を手に入れてから今年で10年を迎えるという小林さんに話を聞いた。キャンプについて、山の生活について。
――素敵な所ですね。何もない場所をゼロから開拓されたのだとか。
不動産屋さんに連れて来てもらった時はまったく見通しの効かない過密林でした。どこからどこまでを紹介されているのか全然分らないほど。今見えている、あの山もまったく見えていなかったですよ(笑)。
――小林さんはこの場所をなんて呼んでらっしゃるでしょうか。
“山”ですね。オフィシャルの呼称は“ヤマ”です。
――ここを作ろうと思ったきっかけを教えてください?
きっかけは、アメリカで観たPhishのライブです。ボストンから車で8時間くらい、メイン州の森の中を延々と走って。で、辿り着いたのが使われていない空軍の滑走路。その2本の滑走路に4万人がキャンプする。それが楽しかったんです。誰もいない山の奥に自分たちの場所を作って、デッカイ音で音楽を聴くのっていいなって。自分もそういう場所を作りたいと思ったんです。
――演者はPhishだけだったんですか?
そう。フィッシュの4デイズ。オール・キャンプインで。一緒に行った『スペクテーター』の青野(編集長の青野利光さん)のおかげでVIPのエリアに入れてもらったんですが、そこには、お金持ちのデッド・ヘッズ、フィッシュ・ヘッズがいて。その人たちのキャンピングカーはバスなんです! それも空港に停まっているようなデカイやつ。普通のバスならスーツケースを入れるはずのスペースにバカデカイ液晶モニターがついていたり、その横のスペースにはセグウェイが積んであったり。内装はベージュの革張りで、グレイトフルデッドのマークがバーンって掲げてある。そのオーナーはというと、タイダイのTシャツを着て、足元は裸足だし、誰よりもみすぼらしい恰好をしていて(笑)。VIPのキャンプサイトで豪華なキャンピングカーを持っているヤツに限って、外に小さな三角テントを張って、うんと小さな焚き火をして、ヘッドライドの光で本を読んだりして。そんな感じがいいなぁって。そういう変なお金の使い方をする変な大人がたくさん居て、楽しそうだったんです。それが原風景。
――ここは設備が充実していますが、別荘ではなくキャンプ場なんですね。
そうですね。自分としてはここでの生活はキャンプです。ここを手に入れるまではいろいろなキャンプ場を回ってキャンプを楽しんでいました。素敵な場所はたくさんあるんですが、設営と撤収を繰り返していると、それが億劫になる瞬間があって。常設できる場所があれば、面倒な作業を減らせるし、その分楽しみを増やして、この先の人生も飽きずに永くキャンプが楽しめるかなと考えました。それで行き着いたのがこのカタチなんです。
――土地と建物の景観、見渡せる風景、すべてが素敵ですが、密集林をここまで整える計画は、どのように進んでいったのでしょうか。
最初の一年間は毎週末通ってキャンプをしていました。土曜日に来て、一泊して作業して、汗まみれ、泥まみれになって、東京に帰るという感じ。まずは、地元の木こりさんに3割程度、木を伐採してもらいました。その木を自分たちで集めて丸太にして、それを薪にして積み上げる。しばらくはその作業でしたね。チェーンソーやオノの使い方はYOUTUBEを見て勉強しました(笑)。余談ですが、10年間、暖房代は1円もかかっていないんです。使い切れないくらい薪があるので。それで、一年間かけて陽の差す方角などを考えながら、デッキを建てる向きを決めたり、切る木、残す木などの計画を立てたり。
――建物のアイデアはどうされたんですか?
デッキを作って、そこにテントを張りたい、というところまでは最初から決めていました。そのタイミングでは2メータードーム(THE NORTH FACEの大型テント)を購入していたから。それで、設計は建築家の大堀くん(GENERAL DESIGN大堀伸さん)にお願いしました。いちばん最初に僕から彼に託した企画書に『これは住居ではありません』と書きました。『建築ではなくて構造物である』と。住居ではない理由としては、四角いログを積み上げてあるだけの簡単な構造で、年月を経てログがやせてくると、ログの間に小さな隙間ができてくる。夜に見るとよくわかるんだけど、隙間から光が漏れているんです。改めていうと、ここでの営みは僕にとってはキャンプ。それをずっと続けるためにこの施設を作ったんです。
――どうしてここを選んだんですか?
青野から、作家の田渕義雄さんの本を紹介してもらったんです。その本を読んで、田渕さんが“森の生活”をする川上村に出掛けてみようと思いました。その頃は、購入できる“山”を探すのがクセになっていて、めぼしい土地に出かけては不動産屋さんを訊ねるということを繰り返していたんです。この辺りでは、4軒ほど紹介されたのですが、最初は区画整理された分譲地しか見せてもらえなくって。でも、たまたま担当の方が同じ歳で、いろいろとお互いの話をして、自分の考えを伝えたら、最終的にここに連れて来てくれたんです。
――小林さんの理想的な場所だったんですね。
そうですね。集落までは尾根をひとつ挟んでいるので〈ORANGE〉のアンプを2台重ねてフルボリュームで音楽をかけても隣家には届きません。それだけ大きな音を出しても誰にも迷惑をかけずに過ごせます(笑)。
――土地を購入したのはいつ頃ですか?
2007年なので、今年で丸10年です。それからほぼ毎週末ここへ来て過ごしています。
――10年という節目を迎えてなにか心境の変化はありますか?
特に達成感はないのですが、10年もの間、ここを維持して、キャンプを続けられたということは、長くキャンプを楽しみたいという当初の目論みは成功していると言えますね。
――モチベーションは尽きないんですね。
先週、あれをやり残したな、とか、仕事中に気になるようになっちゃって。一泊でできることって、結構限られるんです。基本的には手作業が多いので。もっと効率良くやる方法はないのか調べて、『それを試してみたい!』 って思ったりとか。毎週、楽しみにして来ています。未だに新しいテントも欲しいし。テントは野に張ってあるのが一番なんだろうけど、舞台のようにも見えるこんな場所に張ってあるのもなかなか良くて、眺めていて楽しいんです。
――人を招くこともあるんですか?
そうですね。友人、知人が遊びに来たりもするし、地元の仲良くなった木こりの方に、精密伐採という、狙った場所にほとんど誤差なく木を倒す技術を見せていただいたり。ツリーハウスビリダーの竹内くん(竹内友一さん)が、木にロープをかけて上に登らせてくれたり。腕に覚えのあるひとたちが代わる代わる遊びにきていろいろな職人技をみせてくれたりしますね。あとは、「BAMBOO SHOOTS」の甲斐(ディレクターの甲斐一彦さん)が3年連続で11月の後半くらい、極寒の時期に泊まりにきて。テントなしで、ツタンカーメンみたいに、ビシっと真っすぐに寝袋だけで寝るんです、顔だけ出して。明け方に僕がトイレに起きた時、彼を見たら顔中に霜がついてる(笑)。そういう、プチアドベンチャーというか、実験をしにくる人もいます。
――ここで仕事をすることはあるんですか?
基本的にはしませんね。仕事の道具を持って来るんですが、一度も出来たことはないですね。こっちに来たらこっちのテンションになってしまって、全く別な暮らしになっちゃうので。
――お気に入りのキャンプ道具はありますか?
よく使うテントは〈Moss〉ですね。あとは〈THE NORTH FACE〉。2mドームを個人で2つ買ったのは僕が初めてらしいですよ(笑)。
――〈NORDISK〉の印象は?
実は使ったことがないんです。『NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT』のオープニングのときに初めて間近でテントを見させていただきました。でも、〈Mountain Research〉の製品を使ってくれている人たちは、〈NORDISK〉のファンが多いみたいです。嬉しいことにウチのギアと〈NORDISK〉のアイテムは相性がいいのかな……? “シロクマ会”や“芋虫会”(NORDISKユーザーによるオーナーズクラブのようなもの)のひと達にもたくさんユーザーがいてくれるみたいですね。僕はキャンプグッズの白モノがとにかく好きなんです。ウチではタープやチェアはカーキだけでなく、きちんとホワイトを展開していたりしますし。アウトドア用品なのに、白って無謀なんですけど(笑)。だから〈NORDISK〉のアイボリーのシリーズにはすごく惹かれます。
――ここにはたくさんの道具がありますね。
ここには飾りのものは一切なくて、すべてここでの生活に必要なもので実用的な道具なんです。地図はあるけど、絵はひとつも飾ってないし。僕はもちろん、初めて来た人でもどこになにがあるのか、分りやすいように全部見えるように収納してあるんです。
――道具選びのこだわりはありますか?
田渕義雄さんに憧れてここへ来たんですが、ここで生活をはじめて5年後くらいに知人の紹介でお会いすることができて。気がついたら、ここから1番近い民家は田渕さんのお住まいだったんです。それまでは、YOUTUBEでしか見れなかったような、例えば、チェーンソーの研ぎ方とか、園芸についてだとか、いろいろ学ばせていただきました。やっぱり実際に見せてもらうことで、具体的な知識を得ることが多いなと思いましたね。YOUTUBEだと、雲をつかむような感覚で、曖昧なところがモヤモヤと残ってしまう。例えばオノは、近所のホームセンターでなんとなく買ったけれど、どうにも使いづらい。田渕さんに教えてもらったオノだと簡単に薪が割れるんです。薪割り用はブレードが厚くて、薪が割れやすいようになってる。最初に買ったブレードの薄いヤツだと、歯が食い込むだけで薪が割りづらい。これは薪割り用とか、木を倒す用、枝を剪定する用とか、ものすごい種類があるんです。柄の形状も使って、それぞれ、手首の使い方が違ったりするんです。そういうことも先輩たちに聞いて学びました。
――フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが大事なんですね
絶海の孤島のような場所での暮らしを山のなかでするような想像していたけど、結局、誰かと関わって、現場で生きている人に世話になったり、教えてもらったりしないと生活できないんですね。例えば雪深い時期には、地元で除雪の機械を持っている人に協力をお願いしないと、ここまで来れないし、帰ることもできないんです。雪がない時期だけ行くんだと、結局なにも身につかないというか。地元の人とリレーションをつくるかっていうのは重要です。そこが普通のキャンプ場でのキャンプとの違いですかね。
PROFILE
小林節正
「. . . . .RESEARCH」代表。それぞれのカテゴリーでテーマを掲げ、入念なリサーチをベースにコレクションを製作。山暮らしのための服〈Mountain Research〉や、キャンピングファニチャー〈Holidays in the Mountain〉、歩くためのギアコレクション〈Anarcho Pax〉、金属キャンプ食器の〈Anarcho Cups〉などを展開。